新法令・判例紹介

 

新法令・判例紹介

離婚訴訟が変わる〜平成16年4月1日人事訴訟法施行〜

弁護士田邊正紀 

平成18年03月31日 掲載

新しい人事訴訟法が施行されました。これによって従来の人事訴訟手続法は廃止されました。法律の名前が変わったことで何が変わったのか見ていきましょう。


1.訴訟の流れ

これまでは,話し合いによる離婚が成立しない場合には家庭裁判所による調停,これもダメな場合には地方裁判所による離婚裁判という流れでした。今回の改正により,離婚調停が成立しなかった場合には,家庭裁判所において離婚訴訟を行うことになりました。その他の家族関係の訴訟も同様の流れとなります。これに伴って,離婚訴訟に伴う損害賠償請求(離婚する相手や不倫相手に対する慰謝料請求等)も家庭裁判所で審理できることになりました。なお,家庭裁判所の判決に不服がある場合に高等裁判所に控訴できる点については変更がありません。


2.財産分与・親権者指定などの手続

これまで,これらの事項が単独で申立てられた場合,家庭裁判所による家事審判が行われ,家庭裁判所調査官による調査を経て審判が下されていました。反面,これらの事項が離婚調停と共に申立てられた場合には,調停が不調となった後も審判手続きには移行せず,地方裁判所の離婚訴訟へと移行していきました。1で説明したとおり,離婚訴訟を家庭裁判所で行うこととなったことから,財産分与や親権者指定などが離婚訴訟とともに提起された場合にも,家庭裁判所調査官による調査が利用できることとなりました。もちろん,離婚の原因が何であったかや慰謝料の金額等はこれまで通り,証拠や証言により証明する必要があります。


3.離婚訴訟の管轄

これまで離婚訴訟の管轄は,1夫婦の共通の住所地,2夫婦が最後に同居していた土地にどちらかが住んでいる場合にその住所地,3夫婦のいずれかの住所地となっていました。また,その他の家族関係の訴訟については,それぞれ異なる管轄規定を定めていましたが,これらすべてを「当事者のいずれかの住所地」と改めました。すなわち自分が住んでいるところの家庭裁判所と相手方が住んでいるところの家庭裁判所のどちらでも自由に訴訟を提起することができるようになりました。但し,調停申立については,これまで通り相手方が住んでいるところの改訂裁判所に申立てなければなりませんので注意してください。


4.当事者尋問等の公開停止

裁判の当事者や証人が,私生活上の重大な秘密について尋問を受ける場合で,1公開の法廷で証言することで社会生活に支障を及ぼすことが明らかで,2その証言がなければ適正な裁判が出来ない場合に限り,非公開の法定で証人尋問が行われることになりました。これにより「裁判に持ち込むと法廷で証言するのが恥ずかしい」という理由で泣く泣く話し合いや調停に応じるということが少しは減ることが期待されますが,あくまで原則は公開ですので過大な期待は禁物です。


5.離婚訴訟における裁判上の和解

離婚訴訟において裁判上の和解が出来ることとなりました。これを聞くと「今までも出来たのではないか?」と思う人も多いと思いますが,これまでは裁判上離婚の合意をして,実際には和解の席上協議離婚届を記載する方法でしか裁判上の和解は出来ませんでした。これでは調停では合意による調停離婚が出来るのに,裁判では合意による和解離婚が出来ないことになりアンバランスであることから今回改正されたものです。実際の違いとして現れるのは,これまでは裁判上離婚の和解をしても戸籍には「協議離婚」と記載されましたが,今後は「和解離婚」と記載されることになることです。但し,当事者双方が希望すればこれまで通り協議離婚届を記載する方法も認められるでしょう。


6.履行確保のための制度

離婚調停や離婚裁判で婚姻費用分担や養育費の支払いが決まってもこれを支払ってもらえない場合が多く見られます。これまでは,未払が溜まるごとに溜まった分を例えば相手方の給与を差押えて回収するという面倒がありました。今回民事執行法が改正されたことに伴い,未払があれば将来の分まで差押えることが可能となりました。また,これまでは給与の4分の1まで(28万円以下の場合)しか差押えが認められませんでしたが,今後は2分の1まで差押えることが出来ることとなりました。


今回,離婚訴訟を含め身分関係に関する訴訟は多くの改正がなされました。手続について不安がある場合にはお近くの弁護士にご相談ください。

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